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2020年7月29日(シュヴィヤール「オートフィクティフ」)

4413 どうして下げられた車の窓からもれてくる音楽は絶対に私の好みではないのだろう? なぜもれてくるのかは分かるのだが。 すっかり老け込んだこの六十代の男は、私の知る最も若々しい八十代でもある。 それでもいつか、君もあんな汚物のようになるんだよ、あのおぞましい悪臭源にね*――みにくいアヒルの子が得意げに首を伸ばしはじめたとき、私はそう言って忌まわしい腐肉を指さした。 - *ボードレール「腐肉(Une charogne)」。 「 オートフィクティフ(L'Autofictif) 」は作家のエリック・シュヴィヤール(Éric Chevillard)によるブログで、2007年9月から現在に至るまで、ほぼ毎日更新されています。全アーカイヴが毎年1月に L'Arbre vengeur 社より刊行。 翻訳:稲田紘子

2010年7月22日(シュヴィヤール「オートフィクティフ」)

959 カタツムリやヘビ、あるいはクモと同様に、人間もまたアルコールの離脱症状に襲われた神による被造物である。だからもし生き延びたいのなら、神の酔いが醒めないようわれわれ自身で世話してやる必要がある。ちなみにそれというのがこの下界における司祭の役割であって、彼らが引っかけるミサの葡萄酒が彼の頭に回ると、また日々新しい怪物を生み出すのだった(つい最近は「トレーダー」を)。 エデンの園でわれわれは空気より軽く、浮遊していた。ところが蛇が待ちぶせをしてアイザック・ニュートンの通りがかりにわざと林檎を落として以来、われわれは重力をもつようになった、ああ、なってしまった! それだけではない、万物がわれわれの上にのしかかりはじめたのだ。 あら、私をみくびらないでくださいよ、気を付けた方がいい、これから私があらゆる物事の原理を破壊し、すべての歯車を狂わせます。そしたらもう、人間ひとりひとりがなんの罰も受けないでぽーんと死ぬなんてことはできなくなりますから。   - - 「 オートフィクティフ(L'Autofictif) 」は作家のエリック・シュヴィヤール(Éric Chevillard)によるブログで、2007年9月から現在に至るまで、ほぼ毎日更新されています。全アーカイヴが毎年1月に L'Arbre vengeur 社より刊行。 翻訳:稲田紘子

2013年7月8日(シュヴィヤール「オートフィクティフ」)

1971 最初に味わったときを過ぎてしまえば、感覚は自らが担っているつもりの、現実を把握するという役割を果たさなくなる。というのはこの感覚なるものは、あの古びた体験までもを呼びさまし、われわれを記憶の夢想へと連れ去るのだが、この夢じたい想像によって変形させられているのだから。つまるところ現実はつねに逃げ去り、ただ痛みだけがその存在を証し立てる。残るのは幻想のヴェールが覆い隠すことのない、あの神経のひりひりとした苛立ちだけなのだ。 金属製の万年筆が切り裂くと同時に、インクの糸が縫いとじる――それが書くということだ。 作家は自らが進歩して、現実をよりよく理解できるようになったと信じたがっているが、実際にはますます自分の巣穴にはまり込み、自分が掘ったトンネルを照らすことすら決してできないのだ。   - - 「 オートフィクティフ(L'Autofictif) 」は作家のエリック・シュヴィヤール(Éric Chevillard)によるブログで、2007年9月から現在に至るまで、ほぼ毎日更新されています。全アーカイヴが毎年1月に L'Arbre vengeur 社より刊行。 翻訳:稲田紘子

Trois haïkus / Takajo Mitsuhashi

老いながらつばきとなつて踊りけり En vieillissant, je suis devenue une fleur de camélia qui danse. 夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり Amaigrie en été, ce que je déteste je le déteste. 鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし La balançoire est à balancer. L’amour,  à ravir. Takajo Mitsuhashi(三橋鷹女, 1899-1972)

2022年7月1日(シュヴィヤール「オートフィクティフ」)

5087 われわれの記憶の中にもっとも深く刻み込まれ、過去のすべてがその周りに秩序立てられるようなモチーフとは、実家の壁紙の模様である。壁がどれも無地である現在、子どもたちが幼い頃の思い出をなにひとつ思い出せなくなることが危惧される。 ドアの覗き穴に望遠鏡のレンズをはめ込んでごらん、そうすればヴィーナスがノックしに来るだろう。 脱走は刑期をまっとうするもっとも迅速な手段ではないか?   - - *ヴィーナス(ウェヌス)とは金星のことでもある。 「 オートフィクティフ(L'Autofictif) 」は作家のエリック・シュヴィヤール(Éric Chevillard)によるブログで、2007年9月から現在に至るまで、ほぼ毎日更新されています。全アーカイヴが毎年1月に L'Arbre vengeur 社より刊行。 翻訳:稲田紘子